Diaryの日記帳

映画、アニメの感想を中心に掲載します。

「ソロモンの偽証」感想

人間には物語が必要なのです。
血湧き、肉踊る物語がね。

伊藤計劃×円城塔屍者の帝国

僕は友達とラーメンをすすっていた。
話は仕事のことが中心だった。
お互いの状況報告がひと通り終わり、少し間が空く。
今だ、と僕は思った。
ずっと話したいことが僕にはあった。
それは、仕事のことなんかより、ずっとずっと僕の心を躍らせてくれるものだった。

ソロモンの偽証、読んだよ。

彼は驚いた。
ソロモンの偽証は、以前別の場所で読んでいる時に、彼が読んだと語っていた小説だ。
作者が僕の大好きな宮部みゆきさんであったため興味が湧き、手に取ったのだ。
彼が驚いたのにはもちろん理由があり、ソロモンの偽証はとにかく長いのだ。
ブレイブ・ストーリーの2倍近くはあるだろう。
それを話題にあがった週数間後に「読んだ」と言われたら、驚くのも無理はない。
だから、彼を落ち着かせるためにも「全部ではなく第一部だけだよ」という言葉をすぐに添えた。
驚く反応が見れたから、僕はもうそれで充分満足だった。
その小説について、お互いの感想を語り合ったところで(僕の知らない領域に彼が踏み込まないよう慎重になりながら)、僕はある疑問を口にする。

最初に出てきたおじさん、それ以降一切出てこないね

ソロモンの偽証は、雪の降るクリスマスイブの夜に、ひとりの老人が電話ボックスで受話器を握るひとりの学生を見かけるところから始まる。
そして、第一部の中ではそれ以降、その老人が登場することはなかった。
補足しておくと、ソロモンの偽証は三部で構成されている。
だから、三分の一は読み終えているのだ。
そこまで行って登場しないということは、一度きりの使い捨ての登場人物なのか、はたまたそうではないのか、少し気になっていた。
この気持ち、分かってくれるかな。
そういう意図だったのだが、彼から返ってきたのは

え、そんなやついたっけ?

いたよ!
と、思わず僕は声を張り上げる。
僕が補足で説明すると、彼はようやく「ああ、はい、はい」と得心がいったようき頷き、その後ニヤニヤが顔に広がっていった。

まあ、この後をお楽しみください。

だよね。

この場で、その「後」について語り出そうものなら、どんな手段を尽くしてでも止める気でいたけど。
とにかく、後の方にニヤニヤしちゃうくらい愉快な展開が待っている。
それが分かっただけでも、僕には充分だった。

その疑問も、全て読み終えた今となっては解決している。
どこで出てきたかこの場で言わないけれど、おお、と思わせるくらいには驚いてしまうタイミングだった。
そもそも、僕はこのソロモンの偽証という本を、どんな話なのか一切知らない状態で読んでいた。
一般的に、ある本を読む時に、その本についてどの程度知っていることが普通なのか分からないけれど、裏表紙に書いてあるあらすじさえ目を通さずに、僕は読み始めたのだ。
だから、物語の展開は正直驚きの連続だった。
特に、第一部を読み終えた時は、それが大きかった。
まさか、学校内で、学生だけで裁判をするだなんて、全く予想していなかったのだから。
確かに、第一部「事件」第二部「決意」第三部「法廷」とはなっているけども、そうだけども、ずっと何かの比喩だと考えていた。
それが分かってから、第三部で開廷することが待ち遠しくてたまらなかった。
そして、第三部は待ち遠しいと思っていた自分が正解だと思える位、いやそれ以上に、面白かった。
まるで、リアルタイムに裁判を傍聴しているかのような感覚
初日からぶっ飛ばしてる。
それが最終日まで続く。
最初から最後までクライマックスだぜ!、とは正にこのこと。
この作品は、とても熱い。
多くのジャンプ漫画がそうであるように。
といっても、筆者は家庭教師ヒットマンREBORN!くらいしか、まともに読んだことはないけれど。
でも、ツナと白蘭が背中合わせで共通の敵に対峙した時、変な声を出さずにいられる人はいないでしょ?

最後に、この作品の主人公について触れたいと思う。
読み終わった人に、この本の主人公が誰であったか尋ねたら、実は色々な答えが出るのではと感じている。
多くの人は「藤野涼子」と答えそうだけど、僕にとって彼女は、物語をテンポよく進める上で、作者と読者、両者にとって都合の良い存在でしかなかったように映るのだ。

ソロモンの偽証の主人公は藤野涼子

というのは

ファイナルファンタジー零式の主人公はエース

と、答えるのに似ている。
俗的に言うなら、読者にとっての「推し」が、この作品の主人公なのかもしれない。
次、この本を紹介してくれた彼に会ったら、彼にとっての主人公が誰なのか聞いてみようと思っている。

以上、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』の感想でした。